日々是洋楽

和訳します!

防衛大行って3日で帰った話

20XX年秋、防衛大の一般入試に合格したのがきっかけだった。そもそも防衛大を受験したのは、国公立の練習のつもりだった。正直期待してなかったし。
せっかくなので滑り止めとして二次試験も受けることにした。結果は合格🌸この時点で本命の大学の判定は厳しいもので、気持ちはほとんど防大に傾いていた。防大の人文なら偏差値は悪くない、就職活動もしなくていい!ということで入校を決めた。運動の経験はなく不安だったが、愛国心はあったし挑戦してみたい気持ちもあった。なんといっても受験に疲れていて、早く大学受験を終わらせたかった.....

防大への緊張とか恐怖はもちろんあったけど、まあなんとかなるかなという気持ちで(そういう気持ちを無理やり生み出し)どうにかやり過ごしていた。訓練についていけるよう毎日ランニングや筋トレもした。準備はしていたけどやっぱり不安だったようで、人生で初めて生理が止まった。出発の前日は緊張で死にそうだった。

 

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空港にて。ワイロを引っ提げている。

とうとう着校日。朝早くバスに乗って防大に向かう。バスは相当混雑していた。走水に着くとすでに入校者の列ができている。列に加わり、緊張しつつ開門を待った。

当日の正門前のようす。教官に絡まれた。

門の前で受付を済ませたのち、記念講堂というホールみたいな場所に行くように指示される。講堂ではずらりと並んだパイプ椅子に順番に座らされる。席順にまた受付。この時は受験した方法(一般文系など)別に受付し、自分の小隊名(小隊名は自分の所属する大隊+中隊+小隊でできている。例:111小隊の場合1大隊の1中隊の1小隊)を知ることになる。その後、大隊ごとに集められ宿舎に向かった。<br>宿舎の窓から上級生が手を振ってくれたりなんかしてにこにこ歓迎ムード☆である。私はすでに防大マンガ「あおざくら」を読んでいたのでとても恐ろしかった。宿舎に着くと中隊ごとに分けられそこでまた受付。上対番に引き渡される(対番とは新入生のお世話をしてくれる人。一人に一人つくのが普通)。
対番「永田(仮)?よろしく~永田の対番の○○。」
私「あ、ハイ!お願いします!これよかったら(ワイロ)、、」
対「わ~ありがとうね。」
私の対番は3年生だった。普通2年生がするものなのだが人手が足りず3年生も駆り出されたらしい。雑談をしつつ部屋に案内してくれる。同部屋の先輩方に挨拶する。部屋長はすごく優しそうで、これは仮の姿と分かっていながらも少し安心した。荷物を置いて対番と一緒に、指導教官のもとに着校報告に向かう。部屋の入り方や礼の仕方を少し教えてもらった。
対「(敬礼しつつ)○○○小隊、○○学生です。○○○小隊永田学生の着校報告に参りました。」
教官「(敬礼して)了解しました。ありがとう😊どこからきたの?所属希望は?」
教官やさしっ。にこにこやないか。

部屋に戻って荷物の整理をする。
部屋長「そろそろ中隊長に報告に行こうか。中隊長っていう怖いお兄さんがいるから入室の練習しないとね。」
入退室の手順を練習して着校報告に向かう。
私「(コンコンコン)」
怖いお兄さん「入れ」
私「失礼します!(ドアを開けて左足から入って回れ右、ドアを閉めて回れ右、左足から一歩出て礼←もう結構忘れてて違うかも)」
このとき驚愕したのが、なぜか怖いお兄さん×5いるということ。いや、1人じゃないのかよ(-_-;)そして5人は多いだろう、
怖いお兄さん1「名前、出身地、小隊名、志望理由を言えぇ!!(怒号)」
私「○○県出身、○○○小隊永田花子(仮)です!小学生の時、近くの基地で(以下略)をきっかけに憧れを抱き防衛大学校を志望しました!」
怖兄2「これからぁ!永田学生にぃ!いくつか質問をする!!俺からは1つう!体力に自信はあるのかぁ!また、ないならどのようにして体力を錬成するつもりなのか!(1つ?)」
私「はい!正直体力に自信はありませんが!訓練や校友会活動(=部活)を通して体力をつけたいと思っております!」突然始まった圧迫面接にもう涙目の私。自分を守る術は大声だけ。
怖兄3「俺からは1つ。憧れて志望したって言ってるけど、憧れだけでやっていける世界じゃないから。正直きついこともいっぱいあるし。そこら辺どう考えているのか。」私「はい!大変なことはたくさんあると思いますが!その一つ一つにしっかりと志をもって乗り越えていきたいと思っております!」
怖兄3「まあね。きついと思うけど、そういう気持ちが大事だから。常にそういう意識を持ってれば乗り越えられるから。頑張って。(真顔)」
私「はい!」
こんな質問を一人一人やっていって恐怖の時間は終わった。

部屋長に連れられてランチタイム。すでに皿によそってあるのだが、とにかく量が多い。1年生は5分ほどしか食事の時間がないのでほとんどが残飯になる。防大の食事はまずいってよく聞くけど、確かにまずいことはまずい。
昼食後は身体検査(尿検査など)と制服の受け取りなどで終わった。

夕方、風呂に行く準備をしていると2年生が3,4年生に何か報告をしていた。

2年生「3階には誰もいませんでした!」
3年生「じゃあはよ行けよ」
4年生「使えねえな」ヒィッ!こわ!落ち着け、私。これが防大の指導なんだ。そう自分に言い聞かせた.。

2年生に風呂に連れて行ってもらう。女子風呂は出入りするとき「お疲れ様です!」「お先に失礼します!」などと叫ばなければならない。下級生は5分で風呂を終わらせなければならない。シャワー室、ドライヤーを使えるのは上級生のみ。などなど細かなルールを教えてもらう。脱衣所はものすごい狭さだが、意外と綺麗だった。


本当の恐怖は清掃の時間から始まった。新入生は2年生の清掃を見学しただけだったのだが、まさに地獄絵図。ものすごい速さで掃除する2年生を囲んで罵倒する3,4年生。「おせぇよーーーーーー!!!!!!」「早くしろよーー!!」「お前今あっちからやったよな、清掃はどこからするんですかーーー!!」「もっと丁寧にやれよ!!」「声が小さえっつってんだろ!!!」「頭悪いの?ほんと使えねえな」「ちょっと来いよお前、もう清掃しないでいいよ」飛び交う罵声。鼓膜が破れるような大声。か、帰りてえ、、毎朝晩これかぁ~帰りてえ、、いやいや落ち着け私。大丈夫大丈夫。耐えよう、耐えてれば終わるから。

清掃の後は中隊ごとに点呼。この際に容儀点検という作業服の着こなしや靴磨きをチェックされるイベントがある。清掃と同じように2年生がシバかれるのを見学しているだけだったが、またも罵声の嵐だった。この点検は絶対に合格しないようになっているが「いつ合格するんか!!!」という理不尽な怒号が飛んだ。2年生が返事に窮しているともちろん「返事しろ!!」と叫ばれる。2年生は「明日です!!」と言うしかない(言うまでもなく明日も合格できないので「嘘をついた」とまた怒られる)。

 

そんな風に1日目は終わった。人生で1番怒声を聞いた日だった。この時点で私の精神はめちゃくちゃにやられていて、固いベッドに寝転びながら涙を流した。高い枕のせいか、身に着けたままの腕時計と靴下のせいか(朝着替える時間がないため)、高ぶった気持ちのせいか眠れぬ夜だった。

 

着校日に精神を病んだ私。2日目を迎えた。このときはホームシックもすごくて、本当に防大から帰りたくて帰りたくて気づくと涙が出てくるような状態だった。基本泣かないように真上を向いていた。なんとか自分を元気づけて訓練に臨んでいた。

怒声にはまだ慣れなかったが、なんとかなるだろうと言い聞かせた。また、細かいベッドメイキングや清掃の手順、プレス(アイロンがけ)の仕方、言葉遣い、挨拶などに加え、宣誓や学生綱領といった長文を覚えなければならない(覚えていなければもちろんシバかれる)。

学生綱領。防大生は意味も分からず丸暗記している。

3日目も同じように過ごしていた。なんとかなる、大丈夫。頭の中で何度も宣誓を唱えながら不安を抑えた。5日目には入校式があり、学生は正式に入校することになる。その日の夜入室要領演練(上級生の部屋でシバかれる儀式)がある。その儀式で宣誓を暗唱しなければならないのだ。

3日目の夜、2年生の入室要領演練を見学することになった。
2年生「(コンコンコン)」
上級生①「入れ」
2「○○○小隊○○学生ですっ!!点検を受けに参りました!」
①「声が小せえよ!!!!!(くそデカ大声)」
2「はいっ!!!!!」
①「最初から出せ!」
2「はい!!!!」
上級生②「脇しめろーーーーー!!!!!!!」
2「はい!!!!!」こんな感じだった。清掃よりも容儀点検よりも地獄の空間だった。上級生も大声出しすぎてむせてるし。こんな調子で3部屋ほどを廻り存分に罵声を浴びる。私はこの演練を見て「帰りたい」が「帰ろう」に変わった。毎年2年生がこうしてシバかれる場面を見て泣き出す1年生もいるという。入校前の演練のあとはメンタルケアを行うのが通例らしい。それほど地獄だった。文章では表せない(放棄)。その夜、私は部屋長に入校を諦めることを話した。

ただ、演練中に笑ってしまったことがいくつかある。
その1
日本人学生「防衛大の設置目的は?」
インド人学生「……わかりませン」
日「わかんねえの!?日本語わかるだろ!何年ここにいるんだよ!」
その2
中国人留学生「オマエ できてねえんだヨ!!!ちゃんと頑張れヨ!!」
その3
上「声出てねえんだよ!!!!」
教官「(後ろから)ちょっと顔近いよ~密だよ😊」

とにかく私は入校を辞退し、次の日荷物をまとめて帰った。防大を出たその日生理が来た。あれだけいろいろな人に応援され、親にも申し訳なく、情けない気持ちは大きかったけれどあの場所でやっていくことはできないと思った。
いい先輩もたくさんいてそれも本当に申し訳なかったな(ただ、人間性を疑う系の先輩もいます)。防衛大の指導はめちゃくちゃに厳しい。それは自衛隊の幹部としての精神力を鍛える必要があるから。私にもそれは理解できたけど耐えられなかった。

防大での3日間は私の中に(地獄のトラウマとして)色濃く残っていて、今も入校を辞退したことで本当に苦しんでいる。でも入校していたとしても苦しんだだろうと思う。

私は防衛大への入校を勧めたりまたその逆もしない。防大の退校者はすごい数だけど、そこでやっていける人も確かにいる。どちらの道を選んでも苦しみも後悔もあると思う。

まあ着校する予定の人は一旦考えたほうがいいかな、、入校してもしなくても今までにない苦しみを味わうことになるから、、

ウツになる前にやめたほうがいいヨ!


防衛大の受験対策はこちら

limm.hatenablog.com